統合失調症について

医学から見た統合失調症

 2018/4/15 

(1)解剖学的所見

解剖学的な研究により、統合失調症患者では、前頭葉海馬周辺で神経細胞の数が少なかったり、並び方が乱れていたりするらしいという所見がありました。しかしながら、全ての統合失調症患者の脳に認められる所見ではなく、確実性には疑問があります。

(2)画像研究

前頭葉や側頭葉が小さいこと、大脳辺縁系の海馬や扁桃体が特に左側で小さいことが判明しています。また、MRIなどの画像検査によって、統合失調症では前頭葉の機能が低下していること、左側の側頭葉(言語に関する領域)の機能が低下していることが示唆されています。

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【統合失調症発症の仮説】

① ドーパミン仮説

ドーパミンの放出促進と再取り込み阻害によって中枢神経に作用するアンフェタミン(覚醒剤)で統合失調症の陽性症状と同じ症状が出たこと、また抗精神病薬と呼ばれるドーパミンの受容体を阻害する薬剤が統合失調症に対して有効であったことから、『統合失調症では、ドーパミンの機能が亢進しているのではないか』という仮説が立てられました。これを統合失調症のドーパミン仮説と言います。

ドーパミンには、複数の種類と経路があります。統合失調症で主に関与しているドーパミンはドーパミンD2と呼ばれるもので、主に幻覚・妄想などの陽性症状に関与しています。統合失調症に関与している経路は、中脳辺縁系あるいは中脳皮質系と呼ばれる経路です。中脳辺縁系は腹側被蓋野と呼ばれる中脳の部位から大脳辺縁系に向かっています。この経路は統合失調症の幻覚や妄想に関連していると考えられています。

一方、中脳皮質系は、同じ腹側被蓋野から前頭葉や側頭葉に向かっています。統合失調症の陰性症状などに関係しているのは、この経路ではないかと考えられています。

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現在の統合失調症の治療薬は、このドーパミン仮説に基づいて作られています。

ただし、ドーパミンの過剰がドーパミン受容体の数の増加か放出の増加なのかは、まだ解明されていません。また、ドーパミン仮説では、統合失調症の陰性症状が説明出来ないという限界があります。

② グルタミン酸仮説

グルタミン酸仮説は、『統合失調症はグルタミン酸の働きが弱まることで生じるのではないか』という仮説です。1970年頃にアメリカで、ファンサイクリジン(PCP)という薬物が流行しました。この薬剤は、幻覚や妄想を引き起こし、統合失調症によく似た症状を認めました。また、PCP乱用者は、幻覚や妄想といった陽性症状だけでなく、無為自閉、感情平板化といった陰性症状も呈することが多かったため、統合失調症は、このPCPと同じ作用機序で生じているのではないかと考えられ、PCPの作用機序がわかれば、統合失調症の原因も分かるかもしれないと考えられました。

PCPは、グルタミン拮抗物質であり、グルタミン酸が結合する部位であるNMDA受容体をブロックする作用がある事がわかり、統合失調症はグルタミン酸の働きがブロックされることで生じているのではないかと考えられるようになりました。

ドーパミン仮説は、統合失調症の陽性症状に対しては説明が付きやすい仮説であり、ドーパミンをブロックすると、幻覚や妄想といった陽性症状は確かに改善します。しかしながら統合失調症の陰性症状や認知機能障害などその他の症状については、ドーパミン仮説では説明できない点が多くあり、特にドーパミンをブロックしても無為自閉、感情平板化などといった陰性症状や認知機能障害は、ほとんど改善しませんでした。

グルタミン酸仮説は、陽性症状に対しても陰性症状に対しても、説明がつく仮説であったため、ドーパミン仮説よりも真の原因に近い仮説ではないかと注目されています。

また、統合失調症の患者は、てんかんを合併しにくいということがわかっています。動物実験では、グルタミン酸を脳に添加するとけいれんが生じることが判明しており、統合失調症ではグルタミン酸が少ないから、てんかんが合併しにくいと考えることができ、これはグルタミン酸仮説に矛盾しません。

グルタミン仮説の限界として、グルタミン酸神経伝達の増強は、興奮毒性という危険な副作用があるため、薬物治療が困難であることです。今後医学が発展し、グルタミン酸神経伝達の増強が安全に行われるようになれば、統合失調症に対する画期的な治療法となると思われます。

③ ドーパミン仮説とグルタミン酸仮説

ドーパミン仮説は、幻覚・妄想といった陽性症状に対しては説明がつく仮説であり、事実ドーパミンの働きをブロックする抗精神病薬は、陽性症状に対して著効し、現在も抗精神病薬は統合失調症の治療薬として使用されています。しかし、抗精神病薬は陰性症状や認知機能障害に対してはあまり効果がありません。これらの症状をドーパミン仮説だけで説明することは無理があります。ここから考えると、ドーパミン仮説は統合失調症の原因として間違ってはいないが、原因の一部でしかないと考えるのが妥当と思われます。

ドーパミン仮説と比べると、グルタミン酸仮説は、陽性症状のみならず、陰性症状や認知機能障害などに対しても説明がつく仮説になっています。そのため、グルタミン酸仮説はドーパミン仮説よりも、より統合失調症の原因に基づいている仮説だと考えられます。

しかし、これはドーパミン仮説が間違っているということではありません。そもそもドーパミンとグルタミン酸はお互いに深く関連している物質であり、グルタミン酸はドーパミンを分泌する神経を制御する働きもあります。

すなわち、グルタミン酸仮説はドーパミン仮説を含んだ、より広い仮説であると考えられています。

【参考文献】

ストール精神薬理学エセンシャルズ 神経科学的基礎と応用 第4版

 

難解な精神薬理学についての細心の知識がオールカラーの図により、非常にわかりやすく解説されています。本文を読まなくても、わかりやすいイラストで描かれているカラー図版を「眺める」だけでも理解できることが本書の特徴です。最新の基礎的神経科学および精神薬理学知見を膨大なカラーイラストにより、多職種チームのコメディカルの方々にも理解しやすく説明されているので、今後精神科医療の核のとなる「多職種チーム」における精神薬理学知識の共有にも役立つと思います。様々な分野で活躍の精神科臨床医の先生のみならず、プライマリーケアーで多くの精神科疾患の患者さんを診察せざるを得ない先生、メンタルヘルスで薬物療法が不十分なのでなないかと感じられている産業医の先生、臨床の場面で服薬指導を行わないといけない薬剤師の先生、これから専門医の試験を受ける若手の先生が、精神薬理学について勉強するのにとても適していると思います。

統合失調症のドーパミン仮説と、NMDA受容体に関係および複合的な遺伝子異常と統合失調症発症の関係についても、詳細に記載されていますので、ぜひ一度読んでみてください。オススメします。

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