治療について

LAI治療について

 2018/4/15 

統合失調症の治療には、効果が数週間続く『LAI:Long Acting Injection(持効性注射剤)』というお薬があります。LAIは、お薬を筋肉内に注射することによって、効果が2週間から1ヶ月続きます。毎月1〜2回のLAI(持効性注射剤)であれば『毎日の服薬が減る』ということが期待出来ます。LAIを使用している間は、飲み薬ではどうしても起こってしまう『飲み忘れ』を防ぐことができます。

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統合失調症は再発する度に、下記のような深刻な状況を招いてしまいます。

  • 治りにくくなる
  • 脳の機能が低下する(二度と治らない)
  • 薬が効きにくくなる
  • 失業したり、休学・退学などでキャリアが傷つく
  • 自尊心・自信がなくなる
  • 家族や友人に心配をかけてしまう(場合によっては友情に影響が出る)

そのため、薬物治療は決して欠かすことができません。しかしながら、現実問題として患者さんがお薬を内服することをやめ、再発することがしばしばあります。

患者さんがお薬を中断する原因(理由)については、下記のようなものがあります。

  • 病識の欠如
  • 服薬忘れ
  • 薬剤に対する効果実感の不足
  • 精神症状の重症度
  • 認知機能障害
  • 多剤大量処方
  • 複雑な用法
  • 重篤な副作用
  • 不規則な生活習慣
  • 家族や地域社会からのサポートが少ないこと

LAIは外来通院時に医療者によって投与されることで、抗精神病薬治療の継続が可能となり、服薬中断による再発・再燃を回避することが出来ます。スペインで行われた大規模臨床試験でも、経口剤(内服薬)の治療継続率が63%であったのに対し、LAI治療では、治療継続率が82%と高率であったことが報告されています。

【LAIの歴史】

LAIは、1966年にエナント酸フルフェナジンが誕生し、1968年にデカン酸フルフェナジンが誕生しました。他の第一世代の抗精神病薬のLAIも1960年〜1970年代に相次いで開発されました。日本では、1970年にfluphenazine enanthate(エナント酸フルフェナジン)が認可され使用されるようになりました。当時は、服薬アドヒアランスの維持・向上を目的とした使用ではなく、病識がないことで拒薬(お薬を拒否する)をする患者さんに対する強制的な使用がほとんどでした。中には懲罰的な使用(例えば、悪いことをしたら注射する)もあったと言われています。

エナント酸フルフェナジンは、体内動態が安定しにくく、投与後に血中濃度が急上昇するため、ジスキネジアやアカシジアなどの強い錐体外路症状が出現しやすく、患者さんは不快感に苦しむことが多く、医療者も使用しにくい側面がありました。

1980年代後半から日本では、haloperidol decanoate(ハロマンス注・ネオペリドール注)、fluphenazine deanoate(フルデカシン筋注)が使用可能となりましたが、当時はまだ入院治療が医療の中心であったこと、第二世代抗精神病薬(SGA)の発売などによってあまり普及はしませんでした。

LAIの歴史が変わるのは、2009年RLAI(Risperidone Long-Acting Injection:リスパダールコンスタ筋注用)が登場してからです。RLAIの成分は、リスペリドンで第二世代抗精神病薬(SGA)になります。SGAはFGA(第一世代抗精神病薬)に比べて錐体外路症状が軽減されているので、患者さんの負担は、以前のLAIに比べてずっと楽になりました。

ただし、上記のような歴史があり、医師が患者さんとの関係を損なうのではないかという不安や、患者さんやその家族が、LAIを受け入れにくいであろうといった、医師の思い込みなどのLAIに対するネガティブな評価があり、あまり普及していません。

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【現在のLAI】

2009年に第二世代抗精神病薬(SGA)であるRLAI(主成分リスペリドン)が日本でも使用出来るようになり、2003年から2013年の10年間で4つの第二世代抗精神病薬LAIが登場しました。第一世代抗精神病薬(FGA)と比較して、SGAは錐体外路症状が軽減されている、血中濃度の変動が少ない、注射の痛みが少ないなどといったメリットが多数あったため、徐々にですが普及し始めています。LAIは経口剤(内服薬)と比較して、入院の予防や入院期間の短縮に対して有効であることも報告されています。

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2015年に日本神経精神薬理学会より後悔された統合失調症薬物治療ガイドラインでは、アドヒアランス低下により再発が問題となるケースにおいて、LAIの使用が望ましく、服薬からの解放などを理由に患者がLAIを希望する場合は特に推奨されています。

LAIは、統合失調症の再発を予防するという観点から、有用な選択肢の1つとなります。しかしながら、根本的な問題として、通院そのものを自己中断してしまえば、再発・再燃のリスクは増大します。LAIは、患者さんに対して侵襲を伴う剤型(注射)であるため、導入前には、医療者と患者さんの双方向から治療を決定する、SDM(Shared Decision Making)による治療選択が必要となります。LAIのメリット・デメリットに関する情報提供はもちろんのこと、患者さんの生活スタイルや価値観などが考慮されることが、非常に大切です。

LAIの最大のメリットは、確実な治療継続による再発の予防ですが、服薬アドヒアランス不良によって再発を繰り返す患者さんだけが適応となるわけではありません。毎日の服薬を負担に感じていたり、毎日服薬確認されることを煩わしいと感じていたり、お薬を内服する時に人目が気になりなかなか社会復帰できない患者さんなども適応となります。LAIは患者さんの社会参加(社会復帰)のための一助となり得る治療法です。

【よくある質問】

Q1.2週間に1回、4週間に1回など、注射のタイミングが遅れたらどうしたら良いですか?

注射するタイミングで通院出来なかった場合は、出来るだけ早く病院に行ってください。注射されたお薬は、ゆっくりと血液中に出て、数週間かけて徐々に減っていきます。だから普段きちんと注射をしている場合は、投与予定日が少し過ぎても効果はしばらく続きます。ただし、お薬が体内から減っていくと効果もなくなるため、早期に再投与が必要となります。

Q2.LAI(持続性注射剤)の治療を避けた方が良い人はいますか?

LAI治療を避けた方が良い方は、下記のような場合です。

① 患者さんや家族がどうしても同意できない場合
同意できないものを無理矢理行うことは、たとえ治療であっても、原則出来ません。

② LAIと同じタイプの治療薬の内服治療が一度も行われていない場合
LAIは注射剤であり、一度体内に入れると1ヶ月以上(ものによっては2ヶ月以上)体内に残存することになります。同じタイプのお薬を内服して、アレルギー反応がないこと、副作用や他の有害事象がないことを確認してから、LAIの導入を検討しましょう。

③ 悪性症候群のリスクが高い場合
悪性症候群は命に関わるので、悪性症候群のリスクが高い方は、LAI治療を避けた方が良いと思われます。栄養状態が不良な急性期患者さんも、LAI治療を避けた方が良いです。

④ LAIを投与した後、引き続き継続的にLAI治療を行えない場合
LAIは定期的に(2週間に1回、または4週間に1回)注射をしなければいけません。定期的な受診が不可能な場合はLAI治療が出来ないので導入はやめた方が良いです。

⑤ 在宅生活で問題が生じた時に、対処できる体制がない場合
副作用などが生じた時に、速やかに、かかりつけ、または近くの医療機関に受診できる体制が必要です。近くに病院がない、何かあっても受診出来ない人は、導入を避けた方が良いかもしれません。

Q3. LAIは、一度注射をしたらもう飲み薬には戻れませんか?

いいえ。LAIは内服薬と同じ成分ですので、もし注射が嫌になったり、薬剤調整を行う際には、内服薬に変更できます。その時は必ず主治医に相談し、一緒に変更を行って下さい。また、1回内服薬に戻して、再度LAIを導入することも可能です。

Q4.LAIの注射を打ち続けていると皮膚が硬くなったり、跡になったりしませんか?

昔のLAI(例えばフルデカシン、ハロペリドール)は溶剤(薬の成分を溶かしている液体)がゴマ油などのオイルでした。そのため、長期的な使用でこの油の成分が筋肉内で硬結を作り、触ってもゴツゴツした塊がわかってしまうなどの問題がありました。現在使用されている新しいLAI(ゼプリオン、エビリファイ)は、水が溶剤として使われているので、硬結になることはめったにありません。また、LAIを打つ際は、必ず前回と違う部位に注射をするように気をつけているので、皮膚が硬くなったり、跡になったりすることは少ないです。

Q5.LAIの治療は、内服の治療に比べて治療費が高くなりますか?

結論から言えば、第二世代抗精神病薬のLAIについては、内服治療に比べ治療費が高くなります。例えば、エビリファイ持続性水懸筋注用(LAI)では、一般的に使用される400mgの注射を1ヶ月に1回注射します。1本およそ4,6539円します。自立支援医療制度を使って、自己負担1割だとしても、1ヶ月のお薬代は、4,654円程度かかります。また、手技料や指導管理料などが加算されるので、およそ5万円ほどになります。

ゼプリオン水懸筋注150mgのLAIでは、1ヶ月のお薬代が64,202円ですので、1割負担で6420円+手技料、指導管理料などとなります。

LAIの治療はどうしても高価になりますが、内服に比べて確実にお薬を摂取できること、毎日内服するストレスから解放されること、副作用が軽減されることなどを考えると、メリットは多いと思われます。

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