治療について

薬の副作用について

 2018/4/15 

薬の副作用とは、本来の効果(主作用)以外の反応のことを言います。抗精神病薬の副作用は、他の薬剤に比べて患者さん本人にとって不快なものが多く、日常生活にも影響が出る可能性があります。

副作用の出やすさは一様ではなく、薬剤の種類や患者さんによって異なります。薬を内服して、『何かいつもと違う』、『副作用ではないか?』と感じることがあったら、我慢したり、遠慮したりせず、すぐに主治医や薬剤師に相談してください。

薬の量や種類を変更することで、副作用が改善される場合があります。また、副作用を抑えるための薬もあります。自分の判断で勝手に服薬を中止したり、過量に内服したりすることは危険ですので、絶対にしないでください。

【抗精神病薬の主な副作用】

(1)錐体外路症状(EPS:ExtraPyramidal Symptoms)

延髄には、錐体という筋肉を動かす司令塔があり、そこから筋肉に向けて神経の線維が通っています。それを錐体路といいます。錐体路系は自動車で例えるとアクセルです。延髄からは、筋肉を動かす指令だけではなく、『ちょうど良い位置で止める』指令も線維を伝わって出ています。その神経線維群が通る道を、錐体外路と言います。錐体外路系は、自動車で例えるとブレーキになります。このアクセルとブレーキをうまく制御することで、我々は運動を円滑にしています。

この錐体路系、錐体外路系は黒質線条体を通過します。黒質線条体は、黒質から大脳基底核までをつなぐ経路であり、正常な黒質線条体経路では、コリン作動性神経による興奮と、ドーパミン神経による抑制との均衡がとれており、運動が調整されています。

抗精神病薬によって、ドーパミン受容体が過剰に遮断されてしまうと、アセチルコリンの遊離を抑制出来なくなり、興奮の信号が過剰に伝達されてしまいます。その結果、ドーパミン神経による抑制が効かなくなり、運動の調整機能が破綻し錐体外路症状が生じます。錐体外路症状は、黒質線条体のドーパミン受容体の78%以上を抗精神病薬が遮断したときに起こる副作用と言われています。

【主な錐体外路症状】

① 振戦(手指の震え)

② 筋強直(筋肉のこわばり、スムーズに手を開けないなど)

③ ジストニア
筋緊張が以上となり強直、捻転が生じ奇妙な姿勢となる。

④ アキネジア
随意運動能力の欠如、または喪失による運動不能な状態。無動症。

⑤ アカシジア
手や足に違和感が生じ、特に『足がソワソワする』など足の不快がひどいために歩き回り、じっと座っていられない(鎮座出来ない)状態。

⑥ ジスキネジア
絶えず口をモグモグと咀嚼運動のように動かしたり、舌を出したり戻したりを繰り返す。ストレスや緊張が高まると症状が悪化する。

錐体外路症状は、直接命に関わるものではありませんが、患者さんにとっては非常に苦痛を伴います。臨床ではアカシジアに苦しみ、抑うつ的になる患者さんもおられました。錐体外路症状が生じた場合、まずは原因薬物(抗精神病薬)の減量が試みられます。精神症状的にどうしても抗精神病薬の減薬が出来ない場合は、錐体外路症状が少ない他の薬剤に変更することも検討されます。具体的には、MARTAであるオランザピン、クエチアピン、partial agonistであるエビリファイなど。

また、一時的な対応として、抗コリン薬を処方することもあります。具体的には、抗パーキンソン病薬であるビペリデン(アキネトン®)、プロフェナミン(パーキン®)、トリヘキシフェニジル(アーテン®)などが挙げられます。その機序としては、抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制し、ドーパミン神経の活性が相対的に上がることで、ドーパミンが増え、錐体外路症状が改善すると考えられています。

しかしながら、お薬によって生じた副作用を、お薬を使って治すという行為はあまり推奨されません。薬の量が増えるに従い、副作用も増えてしまうからです。

また、抗コリン薬は、それ自体に精神作用があり、幻覚・妄想、せん妄を引き起こす可能性があります。更に、悪性症候群など、命に関わる副作用が起こることもあるため、可能な限り、原因薬剤の減量、または変更で対応することが好ましいと思われます。

(2)過鎮静

精神症状を抑え、静穏な状態に戻すことを鎮静といいます。抗精神病薬が効き過ぎたり、量が多すぎたりすると、鎮静が行き過ぎた状態『過鎮静』となり、眠気・ふらつき、倦怠感、疲労感が生じるようになります。患者さんにとって、こうした状態は非常に不快であり、辛い状況であるため、薬や主治医に対して不信感を抱くようになります。その結果、内服拒否や治療の中断につながってしまい、結果として精神症状が悪化してしまいます。

抗ヒスタミンH1作用により眠気が生じ、抗ムスカリンM1作用により認知障害、抗アドレナリンα1作用により過鎮静が生じます。

(3)高プロラクチン血症

乳汁分泌を促すホルモンであるプロラクチンは、脳下垂体前葉から分泌されます。脳下垂体は視床下部によってコントロールされており、普段はドーパミンによってブレーキがかけられています。

抗精神病薬によって漏斗下垂体系のドーパミン受容体が遮断されてしまうと、プロラクチンの産生が促進されるため、高プロラクチン血症となります。その結果、妊娠もしていないのに、胸が張ったり、乳汁が漏出したり、無月経になることがあります。また、性欲が低下したり、男性であれば勃起障害が生じます。一番問題なのは、高プロラクチン血症が長期間続くことで、乳癌のリスクが高くなる、骨代謝に影響が出て骨粗鬆症になりやすくなることなどが挙げられます。

高プロラクチン血症については、当然薬剤の量に依存しますが、私の臨床経験では、それ以上に個人差によるものが大きいと感じています。高プロラクチン血症が出現した際には、原則としてリスペリドンの漸減、または中止を検討し、必要があれば、他の抗精神病薬に変薬します。

※高プロラクチン血症については、こちらのサイトに詳しく書いています。

(4)性機能障害(ED)

抗精神病薬は、興奮を制御するお薬ですので、個人差はありますが性的な興奮も抑制されます。抗精神病薬は、ドーパミンやセロトニン以外の神経伝達物質であるノルアドレナリンの機能も低下させ、勃起障害、射精障害など性機能障害が生じます。抗精神病薬の内服を開始して数年経ってから性機能障害が生じることも多々あります。患者さんにとっては、恥ずかしいと感じたり、相談しにくいと感じることが多いので、医師はきちんと配慮をしなければいけません。

(5)起立性低血圧(ふらつき)

抗精神病薬の種類によっては、アドレナリン受容体α1に強く作用するものがあります。

α1受容体は、刺激が入ることで血管収縮を行い、血圧を上昇させます。抗精神病薬によってα1受容体がブロックされると、血圧を適正に上昇させることが出来ず、脳に送り出す血液が不足し、相対的に脳虚血状態となってしまうため、立ちくらみやめまいなどの症状が出現します。重症になると意識消失が生じ、外傷や骨折の危険性もあります。

(6)悪性症候群

これは抗精神病薬に限らず、向精神薬における副作用で最も重篤な副作用であり、絶対に見逃したらいけない副作用です。頻度は極めて稀です。正確な機序はまだわかっていませんが、『脳内のドーパミンの動態が急激に変化すること』が機序の中心にあると考えられています。臨床では、しばしば薬剤調整を行った際、特に急な減薬・増薬を行った場合に生じることが多いです。第二世代の非定型抗精神病薬ではほぼ生じることは少ないですが、それでも可能性はゼロではないので、注意が必要です。

【悪性症候群の症状】

  • 40℃以上の高熱
  • 筋肉の強剛、錐体外路症状(筋肉のこわばり、震え、痙攣など)
  • 血中CPKの上昇(横紋筋融解症が生じる)

【前駆症状】

  • 発汗
  • 頻脈
  • 無動・緘黙
  • 筋硬直
  • 振戦
  • 言語障害
  • 流涎(唾液分泌過多)
  • 嚥下障害

※この前駆症状を見逃さないことが重要です

【悪性症候群の治療】

  • 全ての向精神病薬を中止
  • 輸液などの身体管理を行いながら、ダントロレンナトリウム(ダントリウムⓇ)を投与

※悪性症候群については『悪性症候群について』をご覧下さい。

(7)不整脈

投与患者の4.6%で不整脈(心房細動、心室性期外収縮等)が認められたとの報告があります。右脚ブロック、洞性頻脈、上室性期外収縮、心室性期外収縮の報告もあるため、もしもこのような症状が出現した際には、投与を中止するなど、適切な処置を行わなければいけません。何よりも、投与前に上記心疾患がないか、心電図検査(出来れば心エコー検査)を行い、確認することが大切です。

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